片麻痺でズボンの上げ下ろしがうまくいかないことがある方へ。作業療法士が、道具を使わないコツから自助具の種類・使用感まで、楽に確実に続けるための方法をわかりやすく解説します。
こんにちは!作業療法士のハルです。
片麻痺のある方のトイレでのズボンの上げ下ろし動作は、リハビリでもよく練習する動作です。しかし、リハビリではうまく出来たのに実際のトイレの時はうまくいかない、昨日はうまくできたのに今日は途中で引っかかってしまう——そんな経験はありませんか?
「できるときもあるのに...。」一日に何度もあるトイレ動作のたびに、そのもどかしさが少しずつ積み重なっている、という方も多いのではないでしょうか?
この記事では、片麻痺のある方がズボンの上げ下ろしをもっと楽に、確実に、安心して続けるための方法をお伝えします。まずは道具を使わないコツから、次に、耳にしたことがあるかもしれない「自助具」の種類と使用感まで、作業療法士の視点でわかりやすく解説します!
1.片麻痺でもズボンの上げ下ろしをもっと楽に、確実に、安心してできる方法はある?
結論からお伝えすると方法や工夫によって楽にできる可能性は十分あります。ただ、「楽にできる」というのは「できないところを補う」ということではありません。今すでに持っている力を、もっとうまく使えるようにすることです。
ズボンの上げ下ろしは、一日に何度も繰り返す動作。朝の着替え、トイレ、入浴の前後と、気づけば一日10回以上行っていることもあります。だからこそ、1回1回の安心感が生活全体の安定に直結します。
「うまくいくときもある」というのは、ズボンを上げる動作はできる段階にすでにある、ということです。その段階をより安定して発揮できるようにレベルアップできるよう、環境や動き方、道具を少し整えることで、「またうまくいかなかった」という小さなストレスを減らせます。
2.片麻痺の方がズボンの上げ下ろしでつまずきやすい理由
片麻痺のある方がズボンの上げ下ろしでつまずきやすい理由に動作の構成があります。
2-1.片手だけで操作しなければならない
麻痺のない側の手で、ズボンを持つ・引き上げる・位置を整えるという複数の動作をこなそうとするとは、両手で行うよりも圧倒的に難易度があがり、動作にかかる時間も増えます。
2-2.バランスを保ちながら行う必要がある
立った状態でズボンを上げる際は、”安定して立ち続ける”ために常に体重移動が起こります。麻痺があると体幹や下肢で立った状態でのバランスを保持しなければならず、さらに、衣服を引き上げる動作が加わるので身体のバランス保持の難易度が上がります。
2-3.服を引き上げる方向のコントロールが難しい
片手で引き上げるとき、腰の後ろ側や麻痺側のウエスト部分までしっかり上げるには、腕の角度や力の方向を細かく調整する必要があります。これは両手動作では無意識にできることですが、自分のおへそを超える腕の動きは、バランスも崩れやすく難しい動作です。
2-4.動作が複数の工程に分かれる
①足を通す→②太ももまで上げる→③立ち上がる→④腰まで上げるこれがズボンを履く一連の動作です。トイレの場合は、「膝まで下げる↔腰まで上げる」の動作が必要です。このなかで、どこか一工程でも止まると動作が難しくなってしまいます。
2-5.疲れや焦りがあると影響が出やすい
一日が終わりに近づく夕方や、急いでいるとき、体調が優れないときは、いつものようにできないことがあります。麻痺がある/なしに関わらず、人間は常に100%の状態で動けるわけではありません。動作そのものの難しさに加えて、そのときの体の状態も影響します。
3.ズボンの上げ下ろしを楽にするための基本のコツ
まずは、道具を使わなくてもできる、ズボンの上げ下ろしを楽にするためのコツを紹介します。
3-1.座って行う
意外と見落としがちなのが「できる限り座って行う」ことです。立ってズボンを上げようとすると、バランスを保ちながら行う必要があり難易度が上がります。トイレの場合は、座った状態で太ももの上げられるギリギリのところまで上げておき、立ち上がってから最後の腰までの引き上げを行うと楽です。
3-2.一度に上げようとせず、段階的に行う
いちどに腰まで引き上げようとすると力も時間も必要になります。「膝まで上げる」「腰の前だけ上げる」「後ろを整える」と工程を分けるほうが、1回1回の動作が小さくなり安定します。うまくいかないときは、一度座って仕切り直すのも一つの手です。
3-3.手すりや支えを使う
立った状態でズボンを上げる場面では、壁・手すりなどに体をもたれかからせて、体を支えます。体が安定すると、引き上げる動作に集中できます。トイレの手すりの位置や自分の動き方を確認しておくと、動線が整ってきます。
3-4.衣類の選び方も動作に影響する
ウエストがゴムで伸縮性のあるズボンは、引き上げやすく動作のハードルが下がります。生地が薄くて滑りやすいものは持ちにくく、少し大きめのサイズは引き上げやすい反面、ズボンの位置がずれてしまうこともあります。普段の動作を振り返って、衣類との相性を確認してみてください。
3-5.麻痺側から足を通す
トイレの場面とは少し話がずれますが、ズボンを履く際のコツもひとつお伝えします。ズボンに足を通すときは、麻痺側から先に行います。
まず麻痺側の足を健側の太ももの上に置くように足を組みます。次に健側の手で麻痺側の足にズボンを通し、膝上まで上げます。最後に健側の足を通すと、履く動作がスムーズになります。脱ぐときは逆に、健側から先に抜くのが基本です。ズボンを履く際は座って、椅子であれば背もたれがあると安心です。
4.リハビリで聞いた「自助具」とは?どんな道具がある?
リハビリのときに「ズボンを履くときに使える自助具もありますよ」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。「道具を使うってどういうこと?」「自分には必要ないかな」と感じた方もいるかもしれません。
「自助具」とは、体の動きにくさや力の弱さなどがあっても、できるだけ自分の力で日常生活を送れるように手助けする道具のことです。作業療法では、対象者の方に合った自助具を選定したり、その方に合わせて調整・時には作ることもあります。
たとえば、片手でボタンを留めるのが難しい人でも一人で付け外しができる「ボタンエイド」や、ひとりで靴下を履くための「ソックスエイド」など、日常のさまざまな場面でさまざまな自助具が使われています。ズボンの上げ下ろしを助ける自助具も、そのひとつです。
自助具は特別な人だけが使うものではありません。リハビリの過程で生活を整えるためのひとつの選択肢であり、「これを使いながら動作に慣れていく」「疲れやすいときだけ使う」といった使い方をしている方も多くいます。使ってみて合わなければやめても良いですし、使いながら動き方を変えていくこともできます。
5.ズボンの着脱を助ける主な自助具——作業療法士が実際に使ってみた感想とポイント
ここでは、ズボンの上げ下ろしを助ける代表的な自助具を4種類ご紹介します。その中から、実際に使ってみた使用感やどんな方に合いやすいかを作業療法士がの視点からお伝えします。
5-1. ズボンエイド(クリップタイプ)
使い方はズボンのウエスト部分にクリップをはさみ、両足を通した後にクリップの先についたひもを引いて上げてズボンを引き上げます。ひもの長さがある分、足元まで手を伸ばす、前屈みになる、足を持ち上げるという動きを最小限にしながら、ズボンを足に通すことができます。
クリップをつける位置とひもの長さが合っていないと、ズボンが上がりにくかったり、位置がずれることがあります。ズボンの素材(滑りやすい、薄い)によっては強く引くとクリップが外れてしまうこともあります。最初に長さを調整する工程があるため、慣れるまで練習が必要です。
こんな方におすすめ:前屈みの姿勢が難しい、足先に手が届かない、座った姿勢が安定している、座った状態でズボンが履ける環境にある、引く動作は問題なくできる、クリップの付け外しができる
5-2. ズボンエイド(フックタイプ)
ズボンのウエストやループに、先端のフックをひっかけて使います。クリップを挟むといった準備がいらず、構造もシンプルで、引っ張りたい部分に直接フックが掛けられるため直感的に使えます。
軽量で扱いやすい一方、ただフックをひっかけるだけなので、すぐにズボンが落ちてしまうことも。また、引っ掛ける位置を変えながらズボンを片側ずつ上げていくことになるため、方向のコントロールが難しい場合もあります。こちらも座位での使用が良いでしょう。
こんな方におすすめ:前屈みの姿勢が難しい、足先に手が届かない、座った姿勢が安定している、手指の力が弱い、シンプルな仕組みのものいい
5-3.リーチャー
先端部分が手元のグリップで開閉でき、つかむ・離す・引っかけるなどの動作ができる長い棒状の自助具です。腰を深く曲げなくても、手が届きにくい場所にある物を掴むことができます。ズボンに足を通すときだけでなく、床やベッド横などに置いたズボンを取る場合にも使えます。ズボン以外にも衣類の位置を整えたり、床のものを拾うといった、汎用性が高い使い方が可能です。
ただ、先端でつかむ操作には「ある程度の握力」が必要で、慣れないうちは先端がズボンから外れることがあります。またリーチャーの長さによってはグリップを握りながらズボンを引き上げるのは難しい場合もあり、自分の手が届く範囲に入るまで使うと良いでしょう。
こんな方におすすめ:前屈みが難しい、ひとつの自助具 道具をさまざまな場面で活用したい、握る力がある
5-4. 紐・ループを取り付ける
ズボンのウエストや腰ベルト部分に、布をループ状にして縫い付けたり、ベルト部分に紐を通し、はじめから指や手を使って引っ張れるようにズボンを改良する方法です。
はじめからループがついているズボンもありますが、自分で取り付けることも可能です。コストが低いため試しやすい方法ですが、「どこにループをつけるか」「長さはどのくらいか」によって使いやすさが大きく変わります。最初から完成形を求めず、「とりあえず試してみる」というスタンスが良いでしょう。リハビリの作業療法士と一緒に、自分の動作に合った位置と長さを調整してみるのがおすすめです。
こんな方におすすめ:つまむ・掴む力が弱い方、まずコストをかけずに試してみたい、リハビリの場で自分の動きに合わせた調整をしてみたい、自助具をなるべく使いたくない方
5-5.履きやすい生地のズボンにする
自助具とは少し異なりますが、ズボンの素材を変えるのもひとつの方法です。タイトなズボンや伸縮性の弱いズボンは、服と体の間に隙間が少ないため、自助具を使ってもどうしても上げ下ろしがしづらくなります。
伸縮性のある生地をつかったズボンや、ゆったりとしたデザインのズボン、摩擦が少なく滑りやすい素材を選ぶと履きやすくなります。
6.ズボンだけでなく、下衣全般の着脱を楽にするために
ズボンの上げ下ろしの難しさは、トイレのときだけではありません。
外出前の着替え、入浴前後の脱ぎ着、就寝前後のパジャマへの着替えなど、下衣の着脱は一日のさまざまな場面で登場します。リハビリでの練習も、実は日常のこれらの場面と地続きです。
ここまでご紹介した動作のコツや自助具は、場面が変わっても基本的な考え方は同じです。麻痺側から行う、座った状態で行う、体を安定させて行うといったコツは「トイレのときだけ」ではなく、下衣全般の着脱に応用できます。
特にトイレとは別の場面、たとえばベッドの端に座って落ち着いて行える状況で自助具の使い方を練習してみる、急いでいないときに動作の流れを練習しておくと、いざ「急いでいるとき」にも応用しやすくなります。
7.「まだ早いかもしれない」と感じている方へ
リハビリのとき「こういう道具もありますよ」と言われて、「まだ大丈夫です」と答える方は少なくありません。「自分でやれるうちは自分でやりたい」という気持ちは、とても自然なことです。
ひとつだけお伝えしたいのは、自助具を使うことは「できないことを認める」ことではない、ということです。
リハビリの最中に自助具を使うことで、1回1回の動作の成功体験が増えます。「またうまくいった」という感覚が積み重なると、動作への不安が少しずつ減っていきます。機能回復を妨げるのではなく、生活の安定を保ちながら回復に向かうためのステップとして活用している方も多くいらっしゃいます。
試してみて合わなければやめてもよいし、とりあえず使ってみてもいい。まずは「こういうものがある」と知っておくことで、必要だと感じたときの選択肢のひとつになればと思います
8.まずは試してみたい方へ——更衣の自助具セット、サンプル貸出のご案内
「実際に手に持って確かめてみたい」「自分に合うかどうか、使ってみないとわからない」「本当に楽になるのかな」そう感じる方も多いと思います。
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